平成25年度 高知大学卒業式告辞
卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。
保護者の皆様には、感慨もひとしおのことでございましょう。心からお祝い申し上げます。
また、ご列席いただきましたご来賓、関係者の皆様に、高知大学を代表してお礼申し上げます。
今日、皆さんが受け取られた卒業証書は、高知大学で学ぶ権利を享受し、皆さんがそれに応え、たゆまぬ研鑽を続けてこられた成果であり、豊かな知力と学び続ける力、そして、社会で生き抜く人間力を修得されたことの証であります。そして、皆さんが国民の税金によって教育を受けた、エリート候補生であることの証でもあります。
エリートには、修得した能力を社会に還元する責務があります。皆さんには、自分が何を為すべきか、それは社会の発展に有益であることか、そして、皆さん自身と皆さんの家族を幸せに出来るものであるのか、ということを常に念頭において、行動して下さることを期待しております。それがエリートに求められるノーブレス・オブリージュであり、リーダー・サーヴァントの精神であります。この精神は、自分をよく理解し、自分を公正に愛していなければ、なかなか身につくものではありません。それ故に、皆さんには、これまで以上に自分に関心を持ち、自分を知り、自分を愛し、そして自分と同じように周りの人に関心を持ち、理解し、愛することを期待しております。
さて、地球温暖化、大気汚染などの環境破壊の進行は、異常気象、自然災害、健康被害などを次々に発生させております。温暖化は、氷河や永久凍土に閉じこめられていた微生物の復活・増殖を促し、さらに温暖化を促進するなど、危険な徴候を誘発し始めております。言い換えれば、自然の回復力が失われる段階に入りつつあることが危惧されております。皆さんは、高知大学における学びを通して、理性的、科学的に考え評価する能力を修得されているはずです。健全な地球と社会の再構築は、優れた教育を受け、高い能力を修得された皆さんのような若者だけがなし得るのであります。この国と国際社会の再生・発展の道を切り開くのは、あなた方のような、若者であります。今後、益々多様化することが予測される日本国と国際社会の中で、真に幸せな社会のあり方について、熟慮しながらも、巧遅拙速の精神をもって行動して下さることを期待しております。
今以上に、自律性と継続力を備え、挫折に強い人材の必要性が叫ばれている時代はありません。皆さんには、限りなく輝かしい、豊で実り多い未来が開けておりますが、長い人生には、楽しいことだけではなく、多くの苦難が皆さんの前に立ちはだかることでありましょう。しかし、皆さんが経験する苦難は、必ず幸運とセットになっているはずです。大きな器の持ち主は,幸運を引き寄せると同時に、大きな苦難も引き寄せてしまう、と言われます。乗り越えることが出来ない苦難は決してありません。常に前を向き、自分一人ではなく、周囲の人と協力することで、苦難の後ろに隠れている幸運を見つけることも、苦難を乗り越えることも容易になるはずです。
江戸時代の佐藤一斎という儒学者の「言志録」という処世訓に記載されている「一燈を頼め」を皆さんへの餞の言葉とします。
一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うることなかれ。ただ一燈を頼め。
昨年は悔しいことが数多くありましたので、あえてこの一文を引用しました。私の解釈ですが、人生にはせっぱ詰まった状況で、暗闇を一人で歩くように、周りが見えず、進む方向さえ分からない時があります。しかし、どのような時であれ、誰にでも、信頼できる仲間や家族が、身近に一人くらいはいるものです。それは、提灯の明かり程度の頼りなく感じる人かも知れません。しかし、太陽や月のように強い光を放つ支援者、あるいはきら星のように数多くの理解者がいないことを嘆く必要はないのです。太陽や月のように、誰彼なく照らす光ではなく、たった一人でよいから貴方のことを、貴方だけのことを親身になって支えてくれる友人や家族を頼り、そして、自分の判断で進みなさい、という意味と理解しております。繰り返します。
一燈を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うることなかれ。ただ一燈を頼め。
周囲の誰かに相談し、その助けを得ることは、私たち人間の特権であります。苦難を乗り越える度に、皆さんの能力は高まり、乗り越えた苦難の大きさに見合った幸運が待っております。皆さん、決して孤立しないで下さい。自分と身近にいる仲間を信じて下さい。人はより掛かり合って生きる動物です。お互い様と気楽に頼り合って下さい。
皆さんの人生が、これからさらに光り輝くものであることを願って、学長告辞とします。
ご卒業おめでとうございます。
平成26年3月24日
高知大学
学長 脇口 宏