平成25年度 高知大学大学院入学式告辞
高知大学大学院総合人間自然科学研究科へ入学された皆さん、ご入学おめでとうございます。
皆さんは、大学で高等教育を受けられ、これからさらに最先端の研究を遂行するために大学院に進学された訳です。
研究とは、豊富な知識をもとに、未だ解決されていない領域を発見し、それを明らかにするための仮説を立て、実験や調査を通して仮説の正しいことを証明する過程であります。研究を遂行するためには、多くの知識を学び、優れた技術を修得することはもちろんのこと、豊かな想像力と発想力、調査力と実行力、そして成果をまとめて論文に仕上げる文章力が必要とされます。これらの能力を修得するためには、研究対象の歴史を理解し、数多くの最新論文を読破することに加え、日頃から、身近にある問題を発見する習慣と指導教員や研究仲間との真摯で深い議論の繰り返しが必要であります。
研究者は非常識と感じる事柄を安易に否定するのではなく、むしろ非常識の中にこそ新たな真実があるという考えが必要であり、あらゆる可能性を念頭に置いた広い視野の俯瞰力と洞察力を持つことが必要であります。それ故に、研究をやり遂げた先輩達の多くは、学部の学びでは修得できなかった社会人としての、そしてリーダーとしての高い能力を身につけているのであります。
さて、大学院では、皆さんの自由な発想のもとで、自由に研究することが保証されております。しかし、自然科学が自然哲学から産業との結びつきが強い科学技術に大きくシフトして久しく、近代社会の発展に大きく寄与してきた自然科学は、その一方で人類に健康被害をもたらし、母なる地球を回復不可能な状況に追い詰めようとしております。神の領域に足を踏み入れている21世紀の自然科学は、その成果がこれまで以上に速いスピードで人類社会を席巻し、一歩間違えれば瞬時にして人類を、そして世界を崩壊させる危険性を孕んでおります。私たち人類は、神に近づくことは可能でありますが、神になることは出来ないことでありますし、そのような欲望を持つことは、決して許されることではありません。だからこそ、人文科学や哲学による科学技術に対するコントロールが必要であり、皆さんの研究成果は、社会に公表し、専門家集団だけではなく、皆さんの研究領域については、全く知識をもっていない国民あるいは社会からも、その価値と意義を評価されることが必要な訳であります。社会にその真価を問わない、また、社会の審査を受けない研究成果は、研究者の自己満足に過ぎず、場合によっては社会に害を為すことさえあるということを、皆さんの胸に深く刻んでおいていただきたい。そして、豊かな教養と判断力、そして自制心を身につけ、これまで以上に、真摯な姿勢をもって学ぶことが求められます。これから身につける知識と技術、そして教養と指導教員の援助によって、21世紀の、さらにはその先にあるべき豊かな社会の発展に貢献できる研究テーマを選んで下さることを願っております。
最後に次のことばをみなさんに贈り、学長告辞とします。「眼力を養うのは知識だけではない、知識に寄り掛かれば目は曇る。知識は感性と悟性(思考力)につもってくる垢である。」
これから最先端の豊富な知識を身につけられる皆さんにふさわしい言葉であると信じております。学び方を誤ると、あるいは知識に依存し過ぎると、見えるものも見えなくなってしまいます。繰り返します。「知識は感性と悟性につもってくる垢である。」
入学おめでとう。
平成25年4月3日
国立大学法人高知大学
学長 脇口 宏