卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。

　保護者の皆様には、感慨もひとしおのこととご推察致します。心からお祝い申し上げます。

　また、ご多忙のところ、ご列席賜りましたご来賓、関係者の皆様に対しまして、高知大学を代表してお礼申し上げます。

　今、皆さんが手にしている学位記は、皆さんが、国税の支援を受けて学ぶ権利を享受し、それに応え、たゆまぬ研鑽を続けてこられた成果であり、豊かな知力と学び続ける力、そして、社会で生き抜く力を修得されたことの証であります。同時に、皆さんは、日本国並びに日本国民から大いに期待されているリーダー候補生であることの証でもあります。

　リーダーには、修得した能力を社会に還元する責務があります。皆さんには、高知大学で修得された能力をもって、自分が何を為し遂げたいのか、それは幸福な社会の発展に寄与することか、そして、皆さんと皆さんの家族を幸せにするものであるのか、ということを常に念頭において行動して下さることを期待しております。それがノーブレス・オブリージュ、そしてサーヴァント・リーダーの精神に通じるものであります。この精神は、自分が何者であるかを知り、自分を公正に愛し、自分に誇りを持っていなければ、身につくものではありません。それ故に、皆さんには、これまで以上に自分に関心を持ち、自分を知ることに努め、自分を愛し、自分の生き方に誇りを持って頂きたい。そして、自分と同じように周りの人に関心を持ち、理解し、愛し、敬意を払って下さることを期待しております。

　産業革命以来、科学は産業の発展を促し、哲学から技術へと大きくシフトして参りました。その結果、地球温暖化、大気汚染などの環境破壊を引き起こし、異常気象、自然災害、健康被害などを次々に発生させております。温暖化によって、デング熱やマラリアのような熱帯地域の感染症が、わが国のような温帯地域に定着することや陸地が狭小化するだけではなく、氷河や永久凍土に閉じこめられていた微生物の復活・増殖を促し、温暖化をさらに促進する、あるいは、新たな感染症の発生などを誘発することも危惧されます。人類は、自然界の全ての存在によって生かされていることを忘れてはなりません。皆さんには高知大学の二つの理念、「敬天愛人」そして、「環境・人類共生」の持つ意味を忘れないで頂きたい。

　これから皆さんが仕事をする上で、やりがいが一杯詰まった夢のような職場や理想の上司に出会うことは殆どないと言ってもいいでしょう。一方、皆さんが、理想の部下としてゆるぎない信頼を得ると言うことも希でしょう。完璧な人間はいないということです。皆さんには、自分の職場を理想の職場に近づける努力、そして理想の上司と理想の部下に近い関係を構築する双方向の努力を継続することを期待しております。決して諦めてはなりません。私は、複雑で不透明な、将来を見通しにくい時代であるからこそ、理想を持つことが必要であり、楽しみながら理想を具現化する努力を続けて欲しいと考えております。

　さらに、人生では、楽しいことと同じくらい多くの苦難に遭遇することでしょう。しかし、苦難は、チャンスでもあります。たとえ、疲労困憊し、先が見えない状況に陥ったとしても、瞳を前に向け、理想を実現する希望をもって前進する意志を失わないで下さい。苦しい時にこそ、人の資質と人格が表れます。苦難を乗り越える度に、皆さんの能力は高まるのです。そして、一人の力には限界がありますが、周囲の誰かに相談し、その助けを得ることは、私たち人間の特権であります。皆さん、決して孤立しないで下さい。瞼を伏せないで下さい。皆さん自身と皆さんの周りにいる仲間を信じて下さい。困った時はお互い様であります。

　さて、皆さんが、何十年か後に、人生の中で最も楽しく、最も感激し、最も輝いていたのは学生時代であったと思うならば、高知大学の教育は失敗であったと言わなければなりません。人は年を重ねるにつれ、感激することが少なくなり、無為に時を過ごすことが多くなりがちであります。しかし、年を重ねるということは、学びと経験を重ねるということでもあります。新たな学び、新たな経験を楽しみ、感激する心を失わないで下さい。最高のものは、過去にあるのではなく、皆さんの未来にこそあるはずであります。理想を掲げて未来をより豊かにする努力を楽しみながら続けて頂きたい。その様な努力を継続する力を修得させるのも、教育であります。

　最後に、皆さんの人生が、さらに光り輝くものであることを願い、そして、皆さんが、高知大学の源流と言うべき旧制高知高等学校の誇り高き精神を受け継ぎ、高知大学で学ばれたことに誇りを持ち続けて下さることを願って、感激と理想について格調高く謳っている旧制高知高等学校初代校長 江部淳夫先生の訓示の一節を餞の言葉として学長告辞とします。

　 「感激あれ若人よ、感激なき人生は空虚なり。汝らが前に、高く髙く理想を掲げよ。さすれば、道は坦々として汝らが前に開けん。」

　 ご卒業おめでとうございます。

平成27年3月23日
高知大学
学長　脇口　宏