平成26年度 高知大学大学院修了式告辞
高知大学大学院を修了され、学位を授与された皆さんに対して、大いなる期待を込めて、心からお祝い申し上げます。
皆さんは、現在の教育課程における最高の高度専門教育を受け、学部の卒業研究とは別次元の高度な研究を成し遂げられました。研究とは、深い学びによって得た豊富な知識と情報に裏付けられた推理力と勘を頼りに、解明されていない事柄を発見し、それが何であるかという仮説を立て、それを実証するプロセスであります。期待する成果が出る出ないにかかわらず、研究以上に知的好奇心を刺激し、心を躍動させる学びを私は知りません。ましてや、仮説が見事に証明された時の感激、感動は言葉では言い尽くせないものであり、皆さんにとって生涯の宝物になっているはずです。
皆さんが、今、手にされている学位記は、皆さんが、何物にも代え難い宝物を手にされていることの証であり、同時に、皆さん自身の自由な発想に基づく研究を、独立して展開する能力を身につけていることの証でもあります。皆さんの課題発見力、仮説を立てる知力、そして洞察力と鳥瞰力、自ら企画立案して解決に導く計画力と実践力、その成果について評価を受け、PDCAサイクルを回しながら進歩し続ける継続力、そして挫折から立ち上がる回復力は、二十一世紀を豊かな世紀とし、社会と皆さん自身を幸せにする上で欠かすことの出来ない能力であります。皆さんには、そのことを誇りとして頂きたい。
皆さんは、研究成果を公表し、レフリーなど第三者からの審査・評価を受けることの意味を学ばれたはずです。それは、社会で新規事業などを提案・実施する場合にも同じことが言えるのではないでしょうか。どのような領域においても審査と評価はついて回るものです。そして、研究の成果としてのエビデンスは、科学者にとって最も重要視するべきものであります。しかし、エビデンスは、現在の科学力で評価した結果であり、今日のエビデンスは明日にはエビデンスでなくなる可能性があることも皆さんは学ばれたはずです。過去のエビデンスに拘泥することは、非常に愚かな行為であります。将来、前例がないという理由で新規提案を否定するような指導者にはならないで頂きたい。
これからも研究を継続される皆さん。科学は、人類に数え切れないほど多くの福音と同じくらいの環境破壊や健康被害などの深刻な有害事象をもたらして参りました。研究を進める際には、人類の繁栄や社会の発展に寄与すること、その成果の利用のあり方などを念頭に置くことも、科学者に負わされた責務であり、研究者の良心であります。そして、皆さんが、自由な発想に基づいて研究を遂行するには、研究費の確保が必要です。自立した研究者とは、自らの力で研究費を確保できる研究者であります。残念ながら、この国では研究者の知的好奇心に基づく基礎研究に対する手厚い支援が、減少する傾向にあるように感じますので、研究資金を獲得するためには、多くの場合、生涯の研究テーマに加えて研究費獲得に有利なサブテーマを持つことが必要になるでしょう。
これから社会で活躍する皆さん。どのような分野で活躍するにしろ、皆さんが研究遂行の過程で修得した能力は、社会が求め続けている優れた能力であります。皆さんが、発展し続ける二十一世紀の持続可能社会を創造するリーダーとなることを期待しております。リーダーとしての誇りとリサーチマインド、そして、自己制御力を持ち続け、理想とする目標に向かって邁進して下さることを期待しております。
最後に、大学院で最新の膨大な知識を身につけられた皆さんに、次の言葉を餞として学長告辞とします。
「三流になりたければ只ひたすら学べ。二流になりたければ悩み、指導者と徹底的に討論せよ。一流になりたければ信念の基その上に独自の工夫を加えよ。」
皆さんが修得されてきた最新の知識は既に過去の産物であり、過去の知識に依存するだけでは、見えるものも見えなくなります。研究も仕事も独りよがりではなく、議論と第三者の審査・評価を受けることが必要です。そして、哲学と信念を身につけ、学んだことに独自の工夫を加えて初めて一人前になれるということです。信念と独学、工夫の大切さを忘れないで頂きたい。
学位取得、おめでとうございます。
平成27年3月23日
高知大学
学長 脇口 宏