2016年の年頭に当たって
明けましておめでとうございます。皆さん、それぞれよい新年をお迎えのことと思います。本年もよろしくお願いします。
はじめに嬉しいことから話をさせていただきたいと思います。昨年、文部科学省の国立大学法人評価委員会が行った「平成26年度に係る業務の実績に関する評価」において『特筆すべき取組』との評価を受けた大学が全国で5大学ありましたが、そのうちのひとつが高知大学であり、マスコミからも非常に大きな注目を浴びましたことは皆さんご存知のとおりです。これは、地域協働学部の設置に際して、構成員の過半数を学外者とする「学部運営会議」を置くこととし、地域の意見を学部運営に反映する仕組みを構築したこと、それからCOC事業において4名の「UBC(高知大学地域コーディネーター)」を県内各地に常駐させるなど地域貢献・地域研究をより深くする「域学連携教育体制」を整備したことが高く評価されたものですが、これらはこれまで取り組んできた全学改組の成果の一部でありまして、『特筆すべき取組』として評価されたことは高知大学全教職員の努力の賜物であると皆さんに深く感謝するものです。
さらに、12月7日号の日経グローカルに『大学の地域貢献度ランキング』の発表がありました。前々回は40位で前回が21位、今回は20位でした。中四国では徳島大学、次いで山口大学、そして3位が高知大学であり、前回と同順位です。高知大学がこれからさらに地域貢献度を上げるためには、昨年採択されましたCOC+事業の成功と地域協働学部をはじめとする卒業生の地域への貢献というものが大きなキーになると考え、期待しているところです。また11月7日号の週刊ダイヤモンド『最強大学ランキング』においては、高知大学は私立大学も含めた総合順位で116位と低かったわけですが、研究については『10年間インパクト論文数』が全国で27位タイ、中四国では広島大学と岡山大学に次いで第3位という大変すばらしい結果でありました。研究につきましては、昨年複数の教員が大臣賞を受賞され、また内閣府の戦略的イノベーション創出プログラムの『海のジパング計画』では、採択課題のほとんどを旧帝大やナショナルセンターなどの大きな組織の研究テーマが占める中、高知大学から代表2題、分担1題の計3題の採択がありました。これらは、高知大学の研究のレベルが大変高く、社会的な評価も高いことが証明されたものであり、学長としても大変嬉しく、また誇りに思っているものです。このほか、『3年間の研究資金調達額』は56位でしたが、これは高知県の地域性を考えれば大変健闘していると私は考えています。もちろんこれで満足するわけではなく、さらに研究力を高めていく努力を全員で進めていきたいと考えています。
さて、東京大学をはじめとする旧帝大が入試改革としまして、地域枠あるいは推薦入試やAO入試、またギャップタームを設け、学生の学びのモチベーションを高めたとしていますが、これは旧帝大クラスの大学が、我々地域大学と同じような入試における教育改革・組織改革を進めている、すなわち、旧帝大が「メガ地域大学化」しつつある、俗に「ミニ東大化」と言われますが、旧帝大こそが先行する地域大学の取組みを取り入れて生き残りを図っているように感じられてなりません。旧帝大が帝大の矜持を失ってしまっては日本の高等教育は大変危険な状態にあると思いますが、こういう状況においてこそ地域大学の本家ともいうべき高知大学にチャンスが広がっている時代であると考え、高知大学が地域の大学として大きく飛躍することを期待するものです。
その意味でも、高知大学が行っている改革は、今後も高い理想のもとに進めなければなりません。私が学長に就任して以来、教育組織改革に取り組んで参りましたが、その中で学んだことがございます。それは、組織改革をはじめとする改革を推進するのは組織の「強い意志」と教職員の「情熱」であるということ、そして学長がすべきことはただひたすら教職員を信頼して待つということであります。
おかげさまで私も待つことができるようになりました。改革を進めていただきました担当理事の皆さんに深く感謝するとともに、具体的計画を練っていただいた各学部の担当の皆さんにも深く敬意を表します。
昨年の地域協働学部と教育学部に引き続き、本年は、人文学部が人文社会科学部、農学部が農林海洋科学部として新たなスタートをします。両学部ともに「異分野統合的なあるいは融合的な教育」を教育の柱としており、これは黒潮圏総合科学専攻をさきがけとして総合科学系に繋がっている「高知大学の文理統合教育」の継続であると私は考え、今後とも高知大学が進めるべき教育のひな形であると申し上げます。
経団連は、大学教育で育成すべき人材として、『幅広い教養を持ち、課題発見・課題解決能力に優れ、さらには自らの意見を論理的に世に問う』ことができ、そして『文理統合的な発想によって課題を解決する能力』を持つ人材を育成してほしいと言っています。私たちが進めている改革は、まさに現代社会あるいは近未来社会が求める人材育成のひな形ともいうべき教育を行おうとするものであり、皆さんには自信を持って改革を進めていただきたいと思っておりますし、また私もそれをバックアップしていきたいと考えています。
さらに経団連は『外国語によるコミュニケーション力』が大変重要であると言っております。外国人と対等に議論し、彼らに私たちの存在を認めさせ、尊敬を得るためには私たち自身が「日本人としてのアイデンティティ」を確立し、また、「深い思索」を「優れた日本語」によって巡らせた後にそれを英語に転換することができる。そのようなコミュニケーション力を持たない限り、単に英語を話すというだけではグローバルな社会では通用しないと考えられます。その意味において、これからの教育改革の中でも、「教養教育」、特に哲学あるいは歴史、さらには古典を含む日本語教育をいかに優れたものとするかが大変重要と考え、高知大学の卒業生が持つ共通の能力に反映される「教養の要」である共通教育の改革は喫緊の課題であると考えています。
今後の改革の詳細につきましては学長選考の際の所信を読んでいただきたいと思いますが、いくつかのことについて述べさせていただきます。理学部の改革もゴールが見えてきました。これから私たちが取り組むのは、「大学院改革」と「教育改革」、そして「教授人事改革」であると私は考えています。
「大学院改革」においては、教職大学院の設置、黒潮圏総合科学専攻につながる修士課程やあるいは学部教育をどのようにしていくか、地域協働学部からつながる大学院を新たに置くのか(置くならばどういう形にするのか)、さらには大学院全体の定員充足率ひいては大学院全体の定員について削減するのか、お互いが融通し合って全体を維持できるような体制があるのかなどを考えなければなりません。大変に大きな難問を抱えていると考えています。
「教育改革」につきましては、「学生の利益を優先する意識」を徹底していただきたい。そして、留年率、就職率等の改善をこれから目指さなければなりません。教育の成果が高く評価されれば就職率はおのずと上がってくるものと信じています。逆に私たちがいくら就職活動を支援しても、社会から、教育の精度が高い優れた人材を輩出していないと評価されると高知大学の就職率は決して高くなることはありません。また、大学独自の「奨学金制度」の充実も必要です。これらの取組みのためには、「IR機能の強化」が必要と考えており、入試成績、学習内容、学びの成績、就職率や留年率などの分析を進めることで、私たちが学生支援のなかで何をしていかなければならないのかがより明白になると考えています。そういったデータに基づいてこれからの教育のあり方・学生支援のあり方を早急に検討していきたいと考え、評価を担当する副理事の職務にIR担当を加えさせていただく予定です。
「教授選考」につきましては、ずいぶん前から言っておりますが、教授というのは教員の中でも特別な存在であると考えています。もちろん教育研究に関わる権利と責任におきましては、教授であろうと准教授であろうと講師や助教であろうとみな独立してこれを進めていく必要があります。ただ教授は、大学運営あるいは教育研究の成果に対する「責任」という点において、ほかの教員よりも明らかに重いものを背負っていると私は考えています。そういう意味で教授はいま以上に「教授としてのプライド」を持っていただきたいし、プライドを持てるような選考の在り方を考えていただきたいと考えています。例えば教授は原則「博士号」を持っていることとし、「複数の候補者」から1名を選び、「役員会で事前審議」して教授の適性を判断する。あるいは「全国公募」を原則とするというようなことをまず検討して進めていきたいと考えています。理系の教員は教授になる時点でほぼ100%博士号を有しているため主には文系の教員についての比較になりますが、過去10年間程度で、博士号を持って教授になった教員とそうでない教員の業績を比較してみますと、特に科研費の獲得について明確な差があるようです。博士を持っている教員の約8割が科研費を獲得しています。私ども大学教員にとって「教育と研究は一体」のものであり、「良き教育は優れた研究から」という理念が高知大学の研究理念として3年前の教育研究評議会で共通認識をしたところであります。より良い教育を目指して教育改革をさらに進めていくためには、より優れた教授の選考の在り方が極めて重要な課題と考える次第です。
最後に、第3期中期目標期間の後半には私たちが予想もしないような激しい嵐が吹き荒れると考えております。現在私たちが進めている改革ではまだまだ対応できない変化が起きるだろうと予想しております。その嵐に対応し乗り切っていくためには、高知大学は経営力をさらに高め、付加価値のある、より強い競争力を有する大学に変わっていかなければならないと思います。その基盤をつくり上げるには、若手の教職員、なかでも40代、50代前半の皆さんの強い意志と情熱に頼らなければならないと考えております。私はこの2期目の任期2年間におきまして教職員の意識改革あるいは嵐に対応するための意識付けというものを何とかつくりあげていきたいと考えております。皆さんよろしくお願いいたします。皆さんの情熱に期待しています。
2016年1月吉日
高知大学 学長 脇口 宏