2017年の年頭に当たって
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。この1年は極めて重要な1年になると考えています。
これまで進めてきた教育組織の全学改組は4月スタートの理工学部で完了します。そのことで、それぞれの新学部ではなく新生高知大学が期待どおりに機能するかどうかということが問われます。全学改組で高知大学はどう変わったのかと全学部に問われるのです。重要なのは入れ物ではなく中味です。問われるのは、教育研究の質であり、教育研究の質による国際貢献・地域連携の質であります。
高知大学は、国立大学改革のトップグループを進んでいますが、改革途上にあり、現在、大学院改組と共通教育を中心とした教育改革が進行中です。
昨年文部科学省の国立大学法人評価委員会が行った「平成27年度に係る業務の実績に関する評価」は全て「順調」との評価で、全てが順調ということはすごいことです。しかし、平成28年度の評価は大学院充足率が足りておりませんので少なくともこの項目でマイナス点がつくのは必至であります。魅力的な大学院改革と大学院教育の創出、すなわち「学部・修士・博士課程教育の明確な差別化」が必須命題になります。大学院修了者は学部卒とは違うことを社会に示さなければなりません。
さて、高知大学はTHE(TIMES HIGHER EDUCATION)世界大学ランキング2016-2017で601~800位(980位が全大学の5%)とされました。600位までにランクされた国内の大学は13校だけで、高知大学は千葉大学、愛媛大学、金沢大学、慶応大学、神戸大学、熊本大学、長崎大学、新潟大学、岡山大学、信州大学、徳島大学、東京農工大学等と同じ14番目のグループです。特に、「研究力」の評価が高く、引用数が多い論文数で国内7位とされ、これは名古屋大学、大阪大学、広島大学、金沢大学、九州大学、千葉大学、熊本大学より上で、国際力も国内15位と高い順位付けでした。これは本当に凄いことであります。
国立大学と私立大学との差別化には研究力と国際力の2点が重要であると考えており、本学は国立大学の本道を歩んでいると言ってよいのですが、強みはさらに強化することが必要です。外国人留学生誘致には、ランキング入りが大きな武器になりますが、それに甘んじるのではなく、我々自身がさらに広報して、さらに外国人が日本の大学で学びやすい環境を作ることが大事だと思います。
さて今年のポイントとして、2つ上げたいと思います。
第1に「双方向性・部局横断型の教育研究と国際貢献・地域連携の充実」が未来を開くポイントとなります。部局完結型の大学や一方向性の教育研究あるいは国際貢献・地域連携をしている大学は、いずれ退場を迫られるようになると思っています。双方向性と部局横断型の2つがより有機的に機能することが大学の発展には重要であります。
第2に「広報とIRそして情報力」であります。広報力の弱さが、国立大学改革を強く求められた要因でもあり、現在でも「国立大学の改革は遅い、変わっていない」という民間からの声が大であります。高知大学では誰から何が学べてどのような能力を修得出来るのか、高知大学の教育研究の特徴が何処にあり、どのような教員がいるのか、各学部がどのような人材を育成するかなどを明確に受験生に伝えることが必要となっています。また、広報、経営戦略、改革などにはIRすなわち「データに基づく方向付け」が求められます。より効率よく最低の努力で最大の効果を出すというやり方をIRによって導き出す努力が、これからさらに必要となると考えています。情報力も重要で、情報セキュリティの強化や世界中の情報を効率的に集め活用することが大学の発展に重要であります。
新年は輝かしい未来を語りたいと思うのですが、組織が夢を語るにはその資格が必要です。それは、「足下を固めておく」ということであり、良い教育研究をしてその成果をしっかり出すことであります。
教育成果の中で「就職率」「留年率」と「早期離職率」などは、受験倍率にも影響する極めて重要な項目です。大学の教育力と教育の成果である学士力、社会人基礎力が評価されるからです。そして、「学生の能力を反映する成績評価」、「大学院進学率」そして「寄附受入金額」などが教育の成果を反映する重要な項目と考えます。教育の成果を上げる要因のひとつに、教員が学生に関心を持ち、教員の背中を見せることがあります。しかし、休学・退学・進路再考などに関するアドバイザー教員の意見を読みますと文章にそのような気持ちが見えない例がみられます。もっと、アドバイザー学生に対する関心を深めていただくようお願いします。
とは言え、高知大学には夢を語るその資格要件が揃いつつあります。教育組織改革、世界の大学ランキング入りなどはその良い例です。しかし、これまで述べてきたように、少なからぬ課題も残っています。ひと言で言えば、「意識改革」です。
教職員の意識は、4年前と較べれば格段の変化であることは間違いありませんが、もう少しのところにあります。例を挙げれば、就職支援も事務を増やしてくれないとできないであるとか、「授業アンケートをしても授業改革はほとんど無い」という学生の声。そして、教職員は部局内と部局間の協働が必要な時代ですが、「協働とは協力と競争の共存」であるはずです。本学には競争の概念がまだまだ薄いと感じております。
今後の改革においては、学生の成績が就活に利用され、大学での学びが卒業生の能力を反映すると産業界に信用されることが必要です。そのためにも、DPに沿った「共通・教養教育」「専門教育」の位置づけが求められます。
大学院改革においては、学部、修士そして博士課程の「教育内容・育成能力の明確な差別化」が必要で、その成果が社会に納得されないと大学院進学率は向上しないでしょう。
教育研究については、チームによる推進がなければ評価される成果を得ることは困難でしょう。また、授業や委員会活動は教授、准教授が中心となり、講師、助教の研究力向上を支援することが求められます。
COC+では県内就職率10%アップを国と約束していますが、それは「大学すなわち全学部の約束」であることを忘れてはなりません。魅力的な県内企業の紹介、高知の魅力、組織の歯車とならない生き甲斐などを学生と共有するのも教育です。教員はゼミの学生と県内企業の魅力についても情報共有を図るべきであります。高知に住みたいと思いながら、12%しか県内に就職しない県外出身学生の県内就職率を高めることが、高知創生、ひいては高知大学の発展に繋がります。
昨年、「高知大学修学支援基金」を設置しましたが、本学の教職員、県内企業、県民の皆様の高知大学生に対する期待を直接示すものが、寄附金額であろうし、学生と県内企業の交流でしょう。学生と県内の魅力的な企業との交流を深め、県内就職率を向上させることは、高知大学並びに各学部の存続をかけた戦いでもあります。県内企業にも「高知大学修学支援基金」への寄付をお願いしておりますが、教職員からの支援をよろしくお願いします。
最後に、一県一国立大は地方創生の絶対的必要条件ですが、高知大学の目玉(一級品)を学内で共有し、その目玉を大学の意志で大きく発展させること、そして、高い入試倍率と就職率が高知県に高知大学を良い形で残す必要条件となるでしょう。そのためにも大学構成員全員の踏ん張りに期待しています。
今年もよろしくお願いします。
2017年1月吉日
高知大学 学長 脇口 宏