大学紹介

平成29年度 高知大学大学院修了式告辞

 高知大学大学院を修了され、学位を授与された皆さんに対して、大いなる期待を込めて、心からお祝い申し上げます。
 皆さんは研究を成し遂げられたことで、研究ほど知的好奇心を刺激し、心を躍動させる行為はないことを実感されたはずです。仮説を証明し、論文に仕上げた達成感と感激は、生涯忘れることが出来ないと思います。同時に、深い学びによって得た良質な知識と情報を分析し、推理力と直感力を駆使して、解明すべき事柄を発見し、仮説を立て証明、あるいは新たな摂理を提唱するプロセスである研究は、新知を求める探求力、学修力、理解力、行動力、表現力などを涵養する学びであることも良く理解されたことと思います。
 皆さんの手にある学位記は、皆さんが、何物にも代え難い優れた能力を修得された証であり、皆さんが修得された、深い洞察力と鳥瞰力、直感力、PDCAサイクルを回す力、そして、失敗から大切なことを学び立ち上がる力と文章を分かり易く簡潔に書き上げる力は、リーダーとして、二十一世紀を豊かな社会にし、皆さん自身を幸せにする上で欠かすことの出来ない能力、社会が求めてやまない普遍的な能力であります。皆さんには、そのことを誇りにして頂きたい。
 科学技術と産業の発展は、大気汚染、海洋汚染、温暖化など、地球環境の破壊を進めております。深刻な健康被害や大規模自然災害の多発、海水の膨張による国土の水没などは、化石燃料依存に対する警鐘であります。一方、太陽光発電や風力発電は、電力の安定供給が困難という課題があり、水力発電には河川の環境破壊という重大な問題があります。国の健全な発展のためには、メリット、デメリットに対する公正かつ科学的な評価に加え、局地的な課題と地球全体の環境保全のバランスを取ることが必要であります。その社会的コンセンサスの構築は国家的課題でありますが、研究経験を基盤とする科学的かつ多角的視野の持ち主である皆さん一人一人の今後に、大きな期待が寄せられる課題であります。一部の政治家が訴えているような、俯瞰に欠ける偏った考えでは、地球と人類が崩壊に向かうことが危惧されます。
 また、科学技術の発展によって、人類は神の領域に繋がる扉を開いてしまいました。しかるに、我が国の文化の成熟は、自然科学の発展に大きく後れており、近々到来するAI全盛時代、生命を操作出来る時代に対して、この国が順応出来ないことが危ぶまれます。平成二十一年一月の科学技術・学術審議会 学術分科会報告書 第一章「日本の人文学及び社会科学の課題」の最初に、日本の人文学及び社会科学が抱えている諸課題の第一は研究水準、第二は研究の細分化、第三は社会との関係である」と記載されています。社会との関係とは、他分野の研究との関係でもあります。自然科学知と人文社会科学知が調和してこそ、科学技術が人類の福音になるのであります。我が国の人文社会科学研究の発展、すなわち、文化の成熟が、自然科学の発展に対応出来ていないことを、当該研究者は猛省し、早急に研究姿勢を改めるべきであります。このままでは、我が国の人文社会科学は、科学技術偏重論に押し切られ、崩壊の道を辿ることを危惧しております。学位を取得された皆さんには、社会のオピニオンリーダーとして、この国の文化成熟の推進力となって頂きたい。
 さて、研究の成果である新規エビデンスは、とても大切であります。しかし、今日のエビデンスは明日にはエビデンスでなくなる定めにあります。過去のエビデンスに拘泥することは、非常に愚かであり、誰かの真似に終始することでもあります。人の真似をしないためには、「独学と工夫」が必要であります。修得した知識・技術は、「独学と工夫」が上積みされてこそ、「人類の未来を開く鍵」となることを教えてくれたのも、研究ではなかったでしょうか。先の冬季オリンピックでは、努力と工夫、そしてチーム力の大切さを再認識させられました。皆さんが、これから所属する組織でチームを構築し、学び合い、刺激し合って「新たな価値」を創造し、社会の発展に貢献して下さることを期待しております。
 最後に、ノーベル賞学者である大村博士の言葉を餞として贈り告辞とします。これは、研究者だけではなく、社会で活躍しようとしている皆さん全員に向けられたメッセージでもあります。
 「科学者は人のためにやらなければダメです。人の真似をすると、そこで終わりです。失敗を怖れない気持ちを常に持つことが大事です」
 学位取得、おめでとうございます。


 

平成30年3月23日
高知大学
学長 脇口 宏

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