2018年の年頭に当たって
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
今年は、4月に新学長体制がスタートする年ですので、私が考えている今後の課題について述べさせて頂きます。なお、これらの多くは、これまで実施してきた若手教員との意見交換会などを通じて聴取した若手教員グループの意見を集約したものでもあり、私としては、各部局で自律的に自己改革としてやり遂げていただきたい内容がほとんどです。
なぜ自律的にやっていただきたいかと言うと、学校教育法の改正など大学のガバナンス改革が行われましたが、私は学部を始めとする各部局が実質的な自治権を持っていなければ国立大学の未来は暗いと考えているからです。もっともここでいう「実質的な自治権を持つ」とは学長が「あの部局は任せておいて大丈夫」という状況になることと考えています。
文部科学省の国立大学法人評価委員会が行った「平成28年度に係る業務の実績に関する評価」では、全ての項目で順調に進んでいるとの評価を得ました。この6年間、評価が低い項目が無いということは素晴らしいことであります。これは、皆さんが必死になって努力した結果で、皆さんのご尽力に心から御礼申し上げます。
また、THE(TIMES HIGHER EDUCATION)世界大学ランキング2016-17では601~800位にランクされ、論文サイテーションは国内7位でした。THE世界大学ランキング2017-18でも同ランクで、論文サイテーションは国内13位に下がったものの九州大学、筑波大学、北海道大学より上位でした。これだけの研究力を発揮することは地方大学にとって至難のことでありますが、先生方の大変な努力によってこのレベルを維持することができました。今年もこれ以上の成果を上げていただきたいと思います。
これに加えて、本学は、教育組織改革で全国トップを走っておりますし、土佐FBC、COC/COC+、UBCの活躍、入試改革などがとても高い評価を受けております。しかしながら、就職率、大学院充足率、外部資金獲得額、研究者総覧掲載率等が低いことや、教員評価の甘さ、学生の成績評価の曖昧さ、3つのポリシーの不明確さなど不安材料も少なくありません。これらの不安材料を解消することが喫緊の課題です。
本学の良好な状態を継続するためには、今日お話しするような課題をいかに早く解決していくかが重要です。
授業料が安いという国立大学のアドバンテージが失われる時代に、18歳人口減少の波を乗り越えるには、受験生増加策と教育・研究力強化が必要であり、そのためには広報とその情報力・IRが肝になります。情報合戦の時代には、強力な広報と広報する内容の情報収集力、広報内容を客観的に証明するデータなどが必須であります。
本学の何を伝えるか、いかにして教育・研究の素晴らしさを受験生に伝えるかということは、優秀な受験生獲得のみならず、産学連携の推進や大学の評価を高める上でも重要です。特に、可視化出来る教育の成果、中でも就職率と大学院進学率等の改善や、優れた研究者の存在をアピールすることが重要でしょう。受験生の多くは教員の研究内容を見て受験校を決めるといわれており、本学にもそうして入学した学生が多数います。
就職率は、教員が4年次の学生に声かけをするだけでも向上するはずです。低い就職率は低い教育力を反映しており、就職率や大学院進学率が向上しないのでは、「手抜き教育」と言われても反論の余地はありません。
教育力を向上させるためには、大学教育創造センターの機能充実が期待されます。FDについては、「大学教育とは何か?高知大学の教育は如何にあるべきか?」といったテーマも必要でしょう。全学で教育の理念を共有することが大切で、新任教員の教育に全学で責任を持つ、新任教員育成プログラムも必要です。
また、ディプロマポリシーに重きをおいたカリキュラムと授業科目の整理は必須です。例えば、米国の医学教育では教えなければならないことをメディカルスクールの4年間で教育しています。我が国では、教えたいことまでコアカリキュラムに落とし込んで、医学部では5年半をかけて広く浅い教育を行っています。この結果、卒業時の臨床力は、米国の方が何倍も高くなっています。これは、本学全体の教育科目にも同じことが言えるように思います。私たちは、21世紀のリベラルアーツとは何かを再度検討し、教養教育に必要な内容をもっと絞るべきです。県内の他大学と連携して「高知共通教育」のようなものを構築することなども必要でしょう。
現在も国立大学文系学部不要論がくすぶっています。実践・実務教育推進論がその例です。これは文系学部教育の内容・質というよりも文系教員の質が問われているのであり、教員の研究力が問われているということであります。大学教育は研究に基づくべきですが、我が国でも優秀な文系教員の論文は年間1編を優に超えるとする人もいる中で、本学の人社系教員の研究力は決して高いとは言えません。最近5年間の原著論文総数が5編以下、年間論文数1編以下の教員が51名おります。論文の少なさを領域の特性というのは言い訳に過ぎず、それを容認することは同僚を侮辱することであります。何より、研究をしない教員に卒論指導・修論指導を受ける学生が気の毒であります。改善されないことは、研究成果が上がらない教員に対する部局内での自律的な改善体制がないことに課題があり、こういったことから、先のガバナンス改革や文系学部不要論といった議論が起こったのだと理解しています。先ほども言いましたが部局が実質的な自治権を発揮できないようでは、国立大学の未来は暗いと言わざるをえません。
景気に左右されず学生が充足する大学院になることは必須でありますが、もちろんその教育と成果が学生、社会の両者にとって魅力的なものでなければなりません。魅力あるカリキュラムを作り、教育を充実し高い能力の人材を育てなければ学生は大学院に集まりません。あるリーディング大学院関係者の言葉を紹介します。「本学の院生は社会で活躍すると確信する。」「自分たちは専門領域と文化歴史などについて日本語・英語によるコミュニケーション力と視野の拡がりを実感し、社会で活躍出来る自信がある。」とのことです。このように学生と教員が自信を持って社会に送り出せる教育が実践出来れば、本学の大学院充足率も向上するはずです。また、これを実現するためには、強力な広報と研究者の情報提供、魅力的な研究者総覧の充実も必要であります。現在計画中の卓越大学院は何度挑戦してでも採択されなければなりませんし、黒潮圏、他の専攻も続かなければなりません。
農林海洋科学部からの博士課程への進学についても連大に依存するのではなく、本学独自の博士課程に多くの学生が進学するような教育を進める必要がありましょう。
現在も、国立大学の教員人事は社会から非難されています。「ぬるま湯的人事」であるということです。これに対しては、教員の研究業績、授業評価などの組織的な公表が必要で、少なくとも研究者総覧には全教員が掲載するべきです。繰り返しになりますが、グループで教員を育成する若手教員育成プログラムも必要です。さらに、業績が上がらない教員には部門長、学系長などによる事情聴取・指導体制が必要で、改善しない場合には担当理事の指導などを検討すべきでしょう。
また、教員の昇任に際しては部局内公募を含めた公募制とし、昇任予定者数の2倍以上の候補者から、研究業績に加え学生への態度(授業評価など)、部局運営貢献等を点数化して総合的に評価して選考し、その結果を公表するなどの教員人事の透明性も必要です。
高知大学修学支援基金は、お陰様で民間・OBの方々から多くのご寄附をいただいておりますが、教員からの支援が依然として少ないことが気になります。学生に対して、教員がどのような期待と関心を持っているかを示すために、あらゆる手段を講じることが必要です。
大学統廃合の具体化はすぐそこまで迫っています。統合を有利に進めるには武器が必要です。卓越大学院が採択されれば強力な武器になりますし、COC/COC+、土佐FBC、希望創発センターの成功も同様です。その際に、「業務の実績に関する評価」で評価の低い項目があると減点方式下では極めて不利になります。評価が低くなる可能性がある大学院充足率や就職率、研修医マッチング率等を早急に改善しておくべきです。
その為には、各部局が経営者意識を持って自己改革を行い、実質的な自治権を持つことが重要です。また、医学部附属病院からの支援に対して、各部局がどのように応えるかも、今後重要な課題になるでしょう。
私は、国立大学の学長は「そうせい候」になれるのが理想と考えております。学長のガバナンスとは本来そうあるべきだと考えています。
最後に、駄馬も走り続ければ名馬になれます。本学は名馬になりつつありますが、走るのを止めればそこで終わりです。自律的に走り続けましょう。
今年も宜しくお願いします。
2018年1月吉日
高知大学 学長 脇口 宏